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トリプトファンはご存知、必須アミノ酸です。
体内で作ることができないので、外から必ず取る必要があります。
トリプトファンは納豆などの大豆製品やヨーグルトなどの乳製品に多く含まれます。
トリプトファンには、大きく分けて3つの代謝(経路)があります。
- タンパク質の合成に使われる
- キヌレニン経路
- セロトニン経路
取り入れられたトリプトファンの9割がタンパク質の合成に利用されるとされます。
出典元
統合失調症のキヌレン酸仮説
PDFページ 2/12
J-STAGE
残り1割のほとんどがキヌレニン経路に向かいます。セロトニン経路に向かうのはごくわずかです。
上の出典元では タンパク質の合成が90% キヌレニン経路が8% セロトニン経路が2% となっています。
キヌレニンをはじめとする代謝産物が合成されます。キヌレニン経路の代謝物は精神・神経疾患の病態に関連しているとされています。
また、キヌレニン経路は、中枢神経の機能に一役を担うことが示されているが、とりわけ、キノリン酸とキヌレン酸は精神・神経疾患と関連することが示唆されている。
引用元
精神・神経疾患におけるバイオマーカーの探索と創薬展開
愛知学院大学
歯学・薬学図書館情報センター
タンパク質の合成に使われる以外のトリプトファンはさまざまな生理活性物質の前駆体として活躍します。
特に注目すべきは、
セロトニン経路で生成される セロトニン、メラトニン
キヌレニン経路で生成されるキノリン酸からのNAD生合成経路で生成される ニコチンアミド(NAM)
の3つだと思います。
セロトニンとメラトニンについては前回のレビューNow Foods 5-HTP 100mgをご覧ください。
ニコチンアミド(NAM)について、NAD生合成の流れの中で説明します。
トリプトファンからのNAD生合成経路
トリプトファンからNADの合成はキヌレニン経路の一部です。
先の出典元 統合失調症のキヌレン酸仮説 の【キノリン酸】から左の←←の流れです。
キヌレニン経路で生成されるキノリン酸からNADに合成されます。その流れは次です。
キノリン酸⇒NAMN⇒NAAD⇒NAD
キノリン酸はQPRTと呼ばれる酵素によってNAMNに変換されます。
その後、NAADを経てNADに変換されます。
これがNAD生合成経路のde novo 経路(新生経路)です。
図1 ■ 哺乳類NAD+合成系
出典元
哺乳類代謝制御におけるNAD+の生理学的重要性と治療標的としての可能性
2/7
J-STAGE
出典元の上の部分です。de novo 経路はニコチン酸(NA)とトリプトファンの2つが出発点となっています。
合成されたNADは 分解されます=Sirtuinの脱アセチル化反応 などに基質として利用 されます。
NADを増やすことが老化を遅らすことの鍵とされているのはSirtuinがNADを使って「若返り&寿命延長」の制御の中心的な役割を果たしているからです。
特に,サーチュインによるNAD+からニコチンアミド(nicotinamide:NAM)への分解反応は,それと共役するサーチュインによるリシン残基脱アセチル化反応を促進することで,健康,長寿に関わるさまざまな生命現象に関与している
引用元
NAD+代謝・サーチュインと幹細胞老化
公益社団法人日本生化学会
分解されたNADは O-アセチルADPリボース(AADPR)とニコチンアミド(NAM)を産生します。
産生されたニコチンアミド(NAM)はNAD合成に再利用されます。
←先ほどの出典元 哺乳類代謝制御におけるNAD+の生理学的重要性と治療標的としての可能性 の下の部分です。こちらはsalvage 経路(再利用経路)です。
トリプトファンからのNAD生合成経路において トリプトファン 60mgに対して1mgのニコチンアミドが生成されます。
NAD+が分解されて,はじめてニコチンアミドが合成される.トリプトファンからニコチンアミドが合成されるためには,10 ステップの反応が必要で,B 群ビタミンと ATPが消費される.健康なヒトでは,約 60 mg のトリプトファンから約 1 mg のニコチンアミドが合成されていることも知られていた.
引用元
尿を用いたB 群ビタミンの栄養状態の評価方法を思いついたきっかけ
PDFページ 4/15
J-STAGE
トリプトファン 60mg ≒ 1mgのニコチンアミドって少しアレです。数字上は、NAD合成において大して貢献していないと思ってしまいます。
そんなことはまったくなく、
さまざまな文献を参照すると、細胞内のNADレベル維持にはde novo 経路=トリプトファンからの合成も大事とのことです。
新生経路またはサルベージ経路のいずれかにおける酵素の阻害により、NAD+が顕著に枯渇する。このことは、細胞のNAD+レベルを維持するためには、これらの経路がどちらも重要であることを明確に示している。
引用元
公開特許公報(A)_リスベラトロールの医薬製剤、および細胞障害を治療するためのその使用方法
国立研究開発法人科学技術振興機構
しかし、NA-free の食事を与えた QaPRT のノックアウトマウスでは大脳や肝臓、腎臓、脾臓、腸など様々な組織でNAD 量が減少することから、組織や栄養状態によってその依存度が異なると考えられている
引用元
NAD 代謝による老化制御機構
PDFページ 1/5
日本基礎老化研究会
※ QaPRT はキノリン酸からNAMNの変換の際に働く酵素
これらの事実は,ナイアシンの栄養状態を維持するうえで,トリプトファン₋ニコチンアミド転換経路は必要不可欠なニコチンアミド供給経路である可能性を示している.
引用元
ナイアシン栄養におけるトリプトファン経路の重要性
1/7
J-STAGE
【NADを増やす】 といえば、salvage 経路における中間代謝物「NMN」を取る です。
これは周知の事実です。
【NADを増やす】を より確かなものにするためにはde novo 経路の出発物質「トリプトファン」を取る も怠らないでください。
NMNのサプリにトリプトファンを配合している商品が売っています。
自身も、トリプトファンからのNAD合成も意識して、トリプトファンサプリを積極的に取るようにしています。
参照一覧
ナイアシン栄養におけるトリプトファン経路の重要性
J-STAGE
NAD 代謝による老化制御機構
日本基礎老化研究会
8.ナイアシンの食事摂取基準を策定するための資料
平成 20 年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業)
日本人の食事摂取基準を改定するためのエビデンスの構築に関する研究
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※レビューの内容について
→個人の見解です。