L-カルニチンの評価 S
※文章内ではL-表記を省きます。
L-カルニチン
カルニチンはアミノ酸の誘導体です。必須アミノ酸のリジンとメチオニンから合成されます。ビタミンBTとも呼ばれるビタミン様物質です。
生体内でカルニチンは、リジンがSAMe(S-アデノシルメチオニン)によりトリメチル化されて作られます。トリメチル化された後にさらにいくつかの酵素反応を受けて作られます。
大まかな代謝の流れが以下です。
リジン+メチオニン→トリメチルリジン→ブチルベタイン→カルニチン
各酵素反応における補酵素としてビタミンC・ビタミンB6・ナイアシン・鉄が必要です。
ビタミン様物質とはビタミンと似た生理作用をもっている有機化合物のことをいいます。ビタミン同様に代謝において重要な役割を果たします。
が、ビタミンの定義から外れているためこのように呼ばれます。
ビタミンの定義は「必要量は微量であるが、体内で合成できない」「合成できたとしてもその量が十分でなく外から取り入れなければならない」です。
カルニチンは体内に約16g存在しています(成人男性・体重約70㎏)。
そのほとんどは筋肉中に存在しています。
約95%~筋肉中に、約1.6%~は肝臓、腎臓に存在します。細胞外液中にもわずかに存在します。
生体内では、遊離カルニチンまたはアシル基と結合したアシルカルニチンとして存在しています。
アシルカルニチンのほとんどはアセチルカルニチンです。体内にあるカルニチンの約10%はアセチルカルニチンです。
カルニチンの主たる働きは「脂肪酸をミトコンドリアに運搬することでエネルギー産生を促進する」と「脳内に到達しアセチルコリンの産生を促し、脳機能を改善する」です。
後者はカルニチンのアセチル誘導体であるアセチルカルニチンとしての働きです。
L₋カルニチンの効果・効能
脂質代謝
脂質がエネルギー(ATP)に変換される過程は以下です。
.
脂肪酸が→に進むにはミトコンドリアに運ばれる必要があります。
この運搬を行うのはカルニチンの役割です。
出典元
L-カルニチンとは
機能性食品 L-カルニチン
ILS(株)
イラストの矢印の色と文章の括りの色をリンクさせて説明します。
脂質→脂肪酸+カルニチン🚚→ミトコンドリア→ATPエネルギー産生🔥
脂質→脂肪酸+カルニチン🚚
脂肪酸はアルブミンというたんぱく質と結合し、筋肉の細胞に運ばれます。そして細胞質に取り込まれた後、活性化され脂肪酸アシルCoAに変換されます。
脂肪酸をエネルギーに変える場所はミトコンドリアのマトリックスです。
ただし、脂肪酸は脂肪酸アシルCoAのままではミトコンドリアの内膜を通過することができません。
一時的にカルニチンと結合し脂肪酸アシルカルニチンになることでミトコンドリア内膜を通過することができます。
ここで脂肪酸アシルカルニチンになれなければ脂肪に逆戻りすることになります。
脂肪酸アシルCoAから脂肪酸アシルカルニチンへ変換する反応を触媒する酵素は外膜に存在するCPT1です。この酵素を活性化させる成分として有名なのはCLA(共役リノール酸)・クロロゲン酸です。
この2つの成分は、サプリでよくカルニチンとセットになっています。
→ミトコンドリア
ミトコンドリアに内部に移動した脂肪酸アシルカルニチンは、ミトコンドリア内膜の内側に存在する酵素の働きによりカルニチンと脂肪酸アシルCoAに分かれます。
その後、脂肪酸アシルCoAはミトコンドリアのマトリックスにてβ酸化を受けアセチルCoAになります。
アセチルCoAは、TCA回路に組み込まれます。
TCA回路にてアセチルCoAはオキサロ酢酸と縮合反応しクエン酸となり、
そのクエン酸が8種類の酸に次々と変化していきます。
アセチルCoAはTCA回路を一巡する間に完全に燃焼します。
そして最終的に二酸化炭素(と水)になります。
その過程で生じた水素を水素受容体であるNAD⁺(及びFAD)が受け取ります。
→NAD⁺(及びFAD)は水素と結合することでNADH(及びFADH2)になります。
生じたNADH(及びFADH2)はミトコンドリアの電子伝達系に送られます。
なおカルニチンは細胞質に戻り再利用されます。
電子伝達系、酸化的リン酸化を経てATPエネルギー産生が産生されます。
電子伝達系はミトコンドリア内膜のたんぱく質複合体や補酵素間で電子(解糖系・β酸化・TCA回路で生じ、NADHやFADH₂で運搬してきた)のやり取りが行われる過程のことをいいます。
これにより生じるプロトン濃度勾配を利用してATPの合成が行われます。電子伝達系に共役して起こる一連のATP合成反応は酸化的リン酸化と呼ばれます。
.
それではまとめに入ります。
脂質→脂肪酸+カルニチン🚚内で説明した通り、脂肪酸は一時的にカルニチンと結合し脂肪酸アシルカルニチンになることでミトコンドリア内膜を通過することができます。脂肪酸は単独ではミトコンドリア内に入ることができません。
なのでカルニチンが不足すると脂肪酸はミトコンドリアに運搬されず、脂肪酸をエネルギー(ATP)に変換することができなくなります。
→エネルギー不足に陥ります
それだけでなく、ミトコンドリアに運ばれなかった脂肪酸は脂肪細胞に運ばれ、「脂肪」として蓄積されます。
→肥満につながります
ということで、カルニチンの摂取は疲労回復やダイエット効果が大いに期待できます。
ここでの脂肪酸は長鎖脂肪酸のことです。
中鎖脂肪酸はカルニチンと結合することなくミトコンドリアに入ることができます。
脳機能改善
いきなりで恐縮ですが、
【ミトコンドリア内の遊離CoAのプールには限りがあるため、1つの代謝において遊離CoAが大量に使われるのはよくないことである。なぜなら他の代謝にも影響を及ぼすから。】
とインプットしてください。
カルニチンはミトコンドリア内のアシルCoA/遊離CoAの比率を調節するといった役割も果たしています。
先で説明した脂肪酸のβ酸化において大量のアセチルCoAが生成されます。この過程では大量の遊離CoAが必要となります。
するとミトコンドリア内の遊離CoAプールが維持できなくなり、糖質燃焼・他の代謝に影響を及ぼすことになります。
脂肪酸分子はβ-酸化によって大量のアセチルCoAを産生するが,このプロセスでは十分量の遊離CoAが必 要になる.遊離CoAが欠乏する状態では糖質燃焼も滞るため,それへの対応策としてピルビン酸からは乳酸への一時変換が,アセチルCoAからはケトン体を生成させて急場を凌ぐものと考えられている.
引用元
日本人とL-カルニチン:Low doseに目を向けて
J-STAGE
特に食後は、過剰にアセチルCoAが生成される(ミトコンドリアにおける アセチルCoAの生成量がTCA回路の許容量を上回る)ので、ミトコンドリア内の遊離CoAが大量に消費されることになります。
しかし、食事の摂取後のように、ミトコンドリアにおけるアセチルCoA の生成量(供給)がTCA回路での流入(消費) より高まった場合、過剰にアセチルCoA が生成されると同時に、ミトコンドリア内の遊離 CoAが消費される。 遊離CoAは脂質代謝および糖代謝の重要な基質であるため、CoA 量の低下は筋細胞の代謝を抑制する。
引用元
骨格筋におけるカルニチン:動態解析から見えた新たな役割
J-STAGE
このような状況において、カルニチンは以下の反応により遊離CoAを確保するように働きます。
アセチルCoA+カルニチン→アセチルカルニチン+遊離CoA
→の反応を触媒するする酵素はカルニチンアセチルトランスフェラーゼ (CrAT)
.
生じたアセチルカルニチンは細胞から血中に移動します。
この細胞外に分泌されたアセチルカルニチンはカルニチンとは異なる生理機能を発揮します。
それが脳機能改善効果です。
アセチルカルニチンは【アセチルコリンを増やす】と【グルタミン酸&GABAの合成に関与する】の2ルートにより脳機能を向上させます。とくに【アセチルコリンを増やす】が重要(有名)です。
アセチルコリンは脳内の神経伝達物質として機能し、記憶や学習に関与します。なので脳内でアセチルコリンが増えれば記憶力や集中力のUPにつながります。逆に脳内のアセチルコリンが不足すると脳機能は低下します。
アセチルカルニチンは血液脳関門を通過して脳内に到達しアセチルコリンの産生を促し、脳機能を改善させます。
さらにいうとアセチルカルニチンには抗酸化作用があり、その作用により脳の神経細胞を酸化障害から守るとも言われています。
アセチル-L-カルニチン(ALCAR)は生体内に存在する化合物であり,クエン酸回路へのエネルギー源の供給と抗酸化作用によって脳保護効果を有するといわれている。
引用元
カルニチンエステルの脳保護作用:スピン解析による検討
KAKEN 科学研究費助成事業データベース
ということで、カルニチンの摂取は脳の健康にも役立ちます。
カルニチンのサプリの原料は数種類あります。L-カルニチン、アセチル-L-カルニチン、L-カルニチンL-酒石酸塩、L-カルニチンフマル酸塩などです。
脳機能改善効果を重視するならば「アセチル-L-カルニチン」を選択してください。
また脂質代謝効果をより得たいと考えた場合は、原料をL-カルニチンL-酒石酸塩・L-カルニチンフマル酸塩のどちらかを選択するのがと良いと思います。
というのもL-カルニチンは吸収率があまり高くないからです。
L-カルニチンL-酒石酸塩、L-カルニチンフマル酸塩は吸収率を高めたタイプです。
※酒石酸塩やフマル酸塩をアピールしていない「L-カルニチン」サプリでも、原料はそれらであることがあります。
L-カルニチンの効果・効能
- エネルギー作りに欠かせない成分
- 脂肪からのエネルギー産生に関わる成分
- 脂肪にアプローチし、燃焼系ダイエットをサポート
- ダイエットをしている人に人気のサプリ
- なかなか体重が減らない人に
L-カルニチンの摂取量、不足、過剰
以下、カルニチンの摂取量関連についてまとめてみました。
◆上限目安量
1000㎎/日
厚生労働省はL-カルニチンの1日摂取量の上限を1000mgとしています。
◆実際摂取量
約75㎎/日
平均的なアメリカ人で約100~300㎎/日摂取していると言われています。
オセアニア地域の人は約300~400㎎/日摂取していると言われています。
食生活の違いから日本人はもっと低く約75㎎/日と言われています。
◆体内合成量
約20㎎/日
1日約20㎎体内で合成されます。
これはカルニチンが脂肪酸をミトコンドリアに運ぶ働きをしているからです。
特に心臓にとってカルニチンは重要です。なぜなら心筋細胞は主に長鎖脂肪酸をエネルギー源としているからです。
厚生労働省で摂取の上限を1日1000mgと定めています。この量を超えないように注意してください。
参照
カルニチン 「統合医療」情報発信サイト 厚生労働省
L-カルニチンの豆知識
生理活性を有するカルニチンはL-カルニチンです。D-カルニチンには生理活性はないとされています。それどころか、D-カルニチンは競合的にL-カルニチンの活性を阻害する作用があります。
サプリで流通しているのはL体のみです。
D体はラセミ体であるDL-カルニチンとして、消化管機能低下に対する胃薬として利用されています。
よく50歳を過ぎたら肉を食べるように推奨されていますが、その理由の1つはカルニチンの体内合成量の減少です。
参照
赤身肉は是か非か カルニチン論争勃発!?
ダイヤモンド・オンライン (株)ダイヤモンド社
カルニチンには赤血球膜の生体膜の安定性を維持する働きがあります。腎性貧血の発症原因の1つにカルニチン欠乏が関与しているといわれています。
L-カルニチンと相性の良い栄養成分
脂肪酸をミトコンドリアに運搬するの手助けする関連
・CLA
・クロロゲン酸
エネルギー代謝関連
・αリポ酸
・コエンザイムQ10
L-カルニチンのレーダーチャート解説
- 6
このカテゴリーに効果があることで有名。即効性があったり、継続して摂取することで効果を感じる - 5
このカテゴリーに効果があることで有名。継続して摂取することでなんとなく効果を感じる - 4
このカテゴリーに効果があるといわれている。効果が得られることを期待して飲んでいる - 3.5
このカテゴリーに効果があるといわれているが、個人的に摂取目的としていない - 3
このカテゴリーになんらかの効果があるもの - 2
このカテゴリーとはあまり関係ないと思われる - 1
このカテゴリーとは関係ないと思われる
※4以上が摂取目的となっているカテゴリー
L-カルニチン 総合評価 S 16
5つのカテゴリーのうち、評価が高い上位3つのカテゴリーを足したものです。「B~SS」でつけています。
SS 18点
S 16点以上
A+ 14点以上
A 12点以上
B+ 10点以上
B 9点以下
髪(薄毛)評価3.5
細胞のエネルギー源であるATPは発毛の際にたくさん必要となります。なのでエネルギー産生工場と呼ばれるミトコンドリアを活発にさせることが「発毛」にとって大切です。
カルニチンにはミトコンドリア賦活作用があります。
肌(美肌)評価4
糖化とは体内に余った糖質がたんぱく質とくっつき、たんぱく質を劣化させる現象のことをいいます。糖化によって作られるのがAGEs(終末糖化産物)です。AGEsが体内に蓄積されるといわゆる老化が進みます。
特に体内のコラーゲンがダメージを受けるといってもいいかもしれません。
コラーゲン繊維は架橋によって分子間がつながっていますが、糖化されると この架橋が無秩序かつ過剰に形成されるようになります。通常は「コラーゲン架橋」ですが、無秩序かつ過剰に形成された架橋は「悪玉架橋(AGEs架橋)」と呼ばれます。
出典元
老化を進める「糖化」から身を守る対策とは?
日経グッデイ
日本経済新聞社
コラーゲンは肌の真皮の主成分です。そこで悪玉架橋ができるとコラーゲン繊維のしなやかさが失われ、ハリ・弾力が低下してしまいます。イコール肌の老化です。
カルニチンにはAGEsの蓄積を抑制する抗AGEs作用があります。
参照
カルニチンの抗AGEs作用とは?
Web医事新報(株) 日本医事新報社
体型(ダイエット)評価6
脂肪燃焼のメカニズムを簡単にまとめると以下になります。
- 分解 体内に蓄積された中性脂肪を遊離脂肪酸とグリセリンに分解する
- 運搬 分解されてできた遊離脂肪酸を細胞のミトコンドリアに運搬する
- 燃焼 ミトコンドリアで遊離脂肪酸がエネルギー貯蔵物質ATPに変わる
ATPがエネルギーとして消費される→脂肪燃焼
カルニチンはこのメカニズムの②運搬に必須です。
食事制限や運動をして中性脂肪を脂肪酸に分解させても、ミトコンドリアに運搬できなけば脂肪酸は中性脂肪に逆戻りです。
カルニチンが不足していると脂肪を効率良く燃焼させることができなくなります。
体力(夜のほう)評価6
産婦人科やレディースクリックで不妊治療の一環としてカルニチンサプリの摂取がよく勧められています。
これは「ミトコンドリアの活性」が関係しています。
女性不妊の原因の一つは卵子の老化です。
卵子には多くのミトコンドリアが存在しています。ミトコンドリアの機能低下が卵子の老化につながるとされています。なので卵子のミトコンドリアを活性させることができれば卵子の老化を遅らせ、その質を保つことができます。
カルニチンは長鎖脂肪酸をミトコンドリア内に運ぶことでエネルギー産生を促進させます。「ミトコンドリアのエネルギー産生を促進」イコール「ミトコンドリアを活性させる」です。
カルニチンは不妊に悩んでいる女性を「妊娠しやすい体質にする」のを強力にサポートします。
ミトコンドリアを活性させる働きは、当然ですが精子にも当てはまります。実験により、カルニチンを摂取することで、精子の濃度の向上や精子の運動率が上がることが報告されています。
参照
カルニチンで精子が元気になる! 精子無力症患者30人中4人で、おめでた
日経メディカル 日経BP
その他(抗酸化)評価3
カルニチンには抗酸化作用があります。体内にある抗酸化酵素SOD、グルタチオンぺルオキシダーゼ、カタラーゼの発現を増強する作用があります。
ただ、ビタミン様物質として同じカテゴリーによく括られている「α-リポ酸」や「コエンザイムQ10」と比べると抗酸化力のインパクトは低いです(個人感)。
- 一重項酸素などに対する消去能がある
- 水溶性と脂溶性の両性質をもつ
- 他の抗酸化物質の「抗酸化力」を再生する
- グルタチオンを増やす
- スーパーオキシドを消去する
- ビタミンEとタッグとなり細胞膜の脂質過酸化反応を防止する
- 体内で合成できる唯一の脂溶性抗酸化物質
L-カルニチン 参照一覧
カルニチン 「統合医療」情報発信サイト 厚生労働省
『カルニチン欠乏症の診断・治療指針 2018』 公益社団法人 日本小児科学会
L-カルニチン情報サイト ロンザジャパン(株)
L-カルニチンのリラックス効果 サプリメントとしての可能性 L-カルニチン情報サイト
L-カルニチン | 減量効果は?摂取量やタイミングは?副作用は? マイプロテイン公式サイトブログ
THE HUT GROUP HP
カルニチン J-STAGE
骨格筋におけるカルニチン:動態解析から見えた新たな役割 J-STAGE
骨格筋エネルギー代謝におけるカルニチントランスポーターの役割 J-STAGE
アセチルカルニチン測定による脂肪酸β酸化活性の評価 J-STAGE
カルニチンの脂質栄養効果と脳の抗老化作用の研究 J-STAGE
神経・筋疾患におけるL‐カルニチン欠乏症と治療 J-STAGE
日本人とL-カルニチン:Low doseに目を向けて J-STAGE
透析とカルニチン J-STAGE
全自動二次元電気泳動装置(Auto2D)を用いたカルニチンの抗酸化作用の解析 J-STAGE
健康食品
序論:カルニチンの基礎と臨床 生物試料分析
骨格筋のカルニチン代謝と老化 日本基礎老化学会
L- カルニチンの脂肪酸に対する 心筋ミトコンドリア保護作用 川崎医療学会誌 学校法人 川崎学園
たまった脂肪は「L-カルニチン」でぐんぐん燃やせ! 日経グッデイ 日本経済新聞社
ダイエット成分のカルニチン、ヒットの兆し ゼリー飲料、ペット飲料、サプリなどが幅広く登場
日経メディカル 日経BP